響け!ユーフォニアム新章(小説)感想 ~展開部~

響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』のネタバレを含む感想記事です。ご注意願います。

 

先日2度ほど劇場版を見てきたばかりの響け!ユーフォニアムシリーズだが今年の夏に原作が新章を展開した。今作はあすか香織晴香たちが引退、卒業し久美子や麗奈が二年生になった新しい北宇治高校の物語ということになる。およそ1/3の主要メンバーがリフレッシュされるというのは物語にとってのある種の試練になると思ったが新章も無事、不安を吹き飛ばす素晴らしい出来であった。ユーフォのアニメは見たけど小説は未読だよーって人はぜひぜひ読んで欲しい。

これより感想をつらつら書き並べる。くどいけどガッツリネタバレがあるのでご注意願います。

 

【新入生のキャラ配置】

今作を捉える上で欠かせない要素なのでまずはここから。

 

・久石奏

ユーフォ担当の1年。緑曰く甘え上手な猫。猫かぶり。演奏技術は新入生の中でも優秀な方で入部初年度からAメンバー入りを果たす。物事を分かったような顔をして俯瞰して見るあすかのような不敵さを常に醸し出し、久美子にはこれでもかというほどあざとく甘える。一方、新1年生の中での交友関係は広く学年社会においては大きな影響力を持っている。まとめると彼女は【新入生の潤滑油】【あすか・夏紀・久美子の要素を併せ持ったユーフォの後継】【久美子を尊敬する直属の後輩】といった役割配置にあるという印象を得た。彼女は主要キャラクターでかつお気に入りなので後でも触れる。

 

・鈴木美鈴

チューバ担当の1年。気難しい実力者だが練習は定時で帰る自分より居残って先輩たちと練習するさつきの方が評価されていると感じ思い悩む。結果的には葉月やさつきを差し置いてAメンバー入りを果たす。役割は【さつきとの対比】【実力とは何かを問う】

 

・鈴木さつき

チューバ担当の1年。明るい性格で先輩ともすぐに打ち解け居残り練習にも励むが美鈴に言わせれば「非効率な練習」をしているために実力は美鈴の方が上。正直そこまで出番があったわけでもないので書くことは少ない。役割は【美鈴との対比】【葉月の後輩】

 

・月永求

コントラバス担当の1年。美鈴以上に難しい性格をしており緑以外にはろくに心を開こうとしない。が、逆に緑に対しては尊敬を通り越して崇拝の域に達している。また、龍聖とのつながりが強調されており『源ちゃん先生』は求の祖父と推測される。役割は【緑の後輩】【龍聖とのコネクト】

 

・小日向夢

トランペット担当の1年。気恥ずかしがり屋で注目を浴びることに耐性がなくソロはおろか1st*1のオファーをも断ってしまう。自信はないが演奏技術は麗奈が認めるほどに優秀。役割は【麗奈の後輩】【非完全成長対象】

 

・加部友恵

元トランペット担当の3年。新年度は久美子と共に1年生の指導係を請け負うが、持病の悪化に伴い奏者から身を引きマネージャーとして獅子奮迅の活躍を見せる。役割は【久美子でさえもすぐに心を許せる先輩】【部活の小さな問題の掃除屋】【優子の負担軽減】

 

ざっと整理すると以上のようになる。それではこれからは既存キャラ+奏の動きについて述べていく。

 

・久石奏(2回目)

基本的に優等生な彼女だが口を開けば毒だらけ。求に対して執拗に苗字で呼ぶ嫌がらせや隙あらば久美子をからかったりといたずらごころに満ち溢れている。さて先ほど【あすか・夏紀・久美子の要素を併せ持ったユーフォの後継】と書いたが、これについて書き下す。まずあすかについては久美子が再三触れている通りである。夏紀についてはややこじつけがましいが、毒舌といたずらごころ、ここぞの優しさは夏紀に通じるものがあると感じた。久美子について、これは一番成分が多いと思うところで、信頼しきれない相手には同級生であろうと慇懃無礼とも取れる徹底敬語で話してバイタルな距離を取ろうとしたり、近づいた相手には逃すまいと鋭く踏み込んだり。これはまさにあすかや麗奈が指摘してきた久美子の本質に近い性質と言えよう。久美子を色濃く継承しているという意味合いも含めて第三の性質は【久美子を尊敬する直属の後輩】としたわけだが、当然後輩は先輩を頼るもので、さんざん【黄前相談所】で久美子の先輩としての有能さは示されたが奏はその最たる鏡として取り上げられている。

 

黄前久美子

主人公である。初年度は2年も3年も【先輩】という同じカテゴリであり少々の差はあれ基本的には同じような関係性であった。しかし今年度は久美子には【先輩】と【後輩】という複数のトラブル源が現れた(そのぶん【同輩】はそこまで問題を起こさない)。これは単純に久美子の活躍にバリエーションをもたらすことになり、去年より主人公らしさが増していた。冷静に考えたら先輩の問題も久美子が処理するの意味わからんがw

今作での役割は【黄前相談所】【恋愛】【1年の指導係】【成長の象徴】といったところ。少しだけ掘り下げる。

まずは【黄前相談所】。これは物語の核となるところで、任意のエピソードにコレが絡む。【1年の指導係】であることや部長である優子の差し金もあって新入生は悩み事があったら久美子のもとに吸い寄せられてくる。久美子も久美子で困惑しながらもそれを受け止め逐一対応しほぼほぼベストな結果を残して1年生たち*2の信頼を得た*3。久美子の『弱いところに刺さる』『何か引っかかる』という元来の特性に頼らざるを得なくなるのは先輩たちも同様で、南中カルテットの全員が久美子のお世話になった。夏紀は奏との間を取り持たれ、優子は頑張りすぎを諫められ、みぞれはついに自分の意見を引きずり出され、希美は同級生にすら言えない本性をさらけ出す。久美子の八面六臂の大活躍ぶりには舌を巻く。とはいえユーフォ史上最もこじれた話になった希美とみぞれの関係に関しては久美子は珍しく拒絶されるなどと何度か失敗し人間性(非完全性)を露呈した。【恋愛】については原作オリジナルということになる可能性もあるが、【ある冬の日】*4において塚本と良い感じになった久美子は新年度も塚本を意識し恥じらうシーンが多々ある。正直、アニメ版の久美子は塚本に対して冷徹とまで言えるドライな対応ばかりで俺が塚本だったら泣くレベルなので異性を意識する久美子というのが新鮮極まりなかったわけだが果たして2年生編がアニメ化されたら恋愛のトコも再現されるのだろうか...?といっても久美子の自己評価は『部活と恋愛を両立させられるほど器用じゃない』なのでカットされようがさして影響がないというのが塚本秀一への悲報である。最後に【成長の象徴】と何とまあ抽象的な言葉を並べたがコレは作品と主人公というメタ的な関係性に依るもので当然のものである。1年という時を経て、あすか先輩という厄介な先輩の教育の成果*5もあって多少のトラブルに対してどっしりと構える余裕があったり、演奏ではパート内最優秀でソロを任せられたり、後輩指導という責任もしっかりと果たしたりと随所に進化が見られた。先述の通りまだまだperfectではないが来たるべき最終学年へ向けて久美子はしっかりと成長している。さらに、麗奈という久美子視点【特別】に近い人間に憧憬を抱き彼女に肩を並べて歩きたいという意思が現れていたりもして演奏者としての貪欲さも身につけておりいよいよ主人公感がオーバーフローしている*6

 

高坂麗奈

主人公の相棒。今作の役割は【久美子の相棒】【慧眼】【新入生の憧れの的】【夢の先輩】。今年も様々なトラブルに巻き込まれる久美子の要所での相談相手として相棒力をいかんなく発揮した。また、孤高と思われている彼女だが周囲の人間観察能力は高く*7優子の部長適性やみぞれの演奏への違和感、希美の心理把握などあらゆるプロファイリングで余すところなく慧眼を発揮している。さらに天下一品の演奏技術は揺らぐこともなく、成績優秀*8、容姿端麗ということもあってあすかに近い存在となり新入生の憧れの視線を浴びる。実際のところもう【特別な存在】と言っていい状態だがコレは久美子の物語なので麗奈は久美子が【特別】に漸近するためのパラメータという役割になるのかなぁという気がしている。まぁ現時点で相当優秀なので文句を言う人間もいないのだが。【夢の先輩】と書いたが麗奈が手取り足取り優しく指導するはずもなくそこまで先輩という活動は見受けられなかった。来年に期待(?)である。

 

川島緑輝

久美子のクラスメイト。今作の役割は【求の先輩】【解説係】【久美子を超える俯瞰】【特別へ近づく者】。今作を読んでいてアニメ版からだいぶ印象の変わったキャラクター。アニメじゃ割とほんわかぱっぱーだったのが、非常に鋭い観察眼と洞察力を以て久美子を内心驚かせていた。【求の先輩】というのはそのままで、捨て猫のような求に対し自分と似た成分を見出しかわいがって教育している。【解説係】はあすかからの任命。曲や楽器の背景理解に対して先生役を担っていた。【久美子を超える俯瞰】とは先ほどの観察眼と洞察力のことで、低音パート各位の人間性を見抜いているかのような動物への暗喩は一読の価値ありである*9。【特別へ近づく者】について、先述の麗奈に引き続いて彼女も高みへ近づいている。元々超強豪中学出身で1年時にはあすか先輩に「サファイア川島はパーフェクツ!」と言わしめている演奏能力を持っていたのでその実力は間違いなく本物なのだ。まるで久美子と麗奈の学年には私もいるんだぞと読者に強く訴えかけてきているかのような強烈な存在感を示していた*10

 

・中川夏紀

ユーフォ担当3年生。役割は【奇跡は努力の先にある】【優子の妥協】【ぬるい優しさ】。思いっきりネタバレになるが前編のクライマックスである夏紀先輩のAメンバー入り。非情なことを言うが筆者的にこの展開は前編読了の瞬間では少なからず興ざめだった。オーディションでハッキリと分かるミスをしてしまったメンバーをAに入れてしまう滝、そこに夏紀が【今までAに入ったことがない3年生】であるという境遇への同情がなかったと言い切れるのか、と。だがこの不満への解答と受け取れる描写が後編で提示された。それが【優子の妥協】だ。優子の体制が滝にまで浸透していたというのであればこれは麗奈が指摘していた【妥協】の結果の一つとして矛盾なく受け取れる。無論夏紀はこれまで、1年の時に腐ってしまった分を取り返そうと必死にもがいてきたはずで、その努力が報われたと解釈することはいくらでもできる。しかし滝昇の冷徹な判断も無視できない確実な要素であり、彼が本番の場面で致命的なミスを犯すような奏者を採用するということは何らかの理由なしには考えられないのだ。そこであのオーディションの結果は夏紀の努力の成果+優子の妥協という二点に起因すると結論付ける。次に【ぬるい優しさ】について、夏紀はいつも相手のことを慮っており部長として頑張りすぎる優子を終始気にかけていた。しかしその底なしの甘い優しさは今作の希美のようなこじれきった人間に対しては心臓を逆なでされるキツいものである。そんな人間には久美子のような弱いところに刺さるキャラが適任であるということを本人も自覚しているというのが面白い。夏紀先輩マジ優しすぎる*11。過程にこそ違和感があったが夏紀がAメンバー入りを果たしたのは夏紀推しとして本当に嬉しい結果だった。

 

・吉川優子

トランペット担当3年。役割は【新部長】【あすかの呪い】【妥協】。部活のトップに立ち後輩たちをまとめていた優子。かの麗奈サマに褒められるほどそのカリスマ性は見事だった*12。重責を果たした彼女だがその負担は重く、実質の前任者であったあすかが優秀すぎたために頑張りすぎてついに合宿で体調を崩す。常々夏紀に休めと言われていたが気に留めず働きまくり...救世主加部ちゃん先輩が現れなかったら致命傷を受けていただろう。そんな彼女は今年度の目標として悲願の【全国大会金賞】を掲げるが、大枠の方針として『頑張りすぎて綻びを生まないように適度に妥協する*13』という体制を暗に敷く。これは部員も大きく増えた環境において昨年度のような種々のトラブルを未然に防ぐように考えられたものだったが、結果としてはそれが裏目に出る形となった。妥協といっても演奏など基本的なところではベストを尽くし、間違いなく昨年度よりレベルの高い演奏に仕上げたにも関わらずあの結果になったのはひとえに周囲のレベルがさらに高かったから*14。前年の全国出場という前提があったからこその妥協方針は結果論だがやはり甘かったということになったとはいえ優子はめちゃくちゃ頑張った。彼女には香織先輩からの労いの言葉が待たれる。

 

・鎧塚みぞれ

オーボエ担当3年。役割は【青い鳥】。今作のもう一人の主人公。口数が少なく意見と呼べるものもほとんどないために彼女のモノローグは貴重である...と思っていたが結局のところ希美至上主義ばかりで独白もさして意味をなしていなかった。そんな彼女の成長が波乱の第二楽章の主題の一つだった。麗奈は一瞬で看破していたが自由曲のソロでの希美との掛け合いにおいてみぞれは実力を出し切れない。理由は2年前に希美がみぞれの期待を裏切る形で部活を辞めていったトラウマを克服しきれず彼女を信頼しきれないため。だが久美子や新山先生の不断の努力の結果、ついにみぞれが全力全開を解き放つと作中の描写で麗奈やあすかでも為したことのない史上最強の演奏による【場の支配】が発生し生徒は魅入られ誰一人全くついていけず指導陣すらも困惑するという圧巻のシーンを生み出した。本を読んでいても背筋がゾワゾワするほど衝撃の場面だったのでここだけでもアニメ化してほしすぎる*15。希美以外にも交流を深めるようになり、演奏の圧倒的才能*16を以てこれまでの殻を破り音大への進路を固める彼女は作中で一番【特別な存在】になったように思える。

 

・傘木希美

フルート担当3年。役割は【リズ】。前年度では不屈のニコニコ精神を湛えた笑顔の化身とも呼べる存在だったが今作でその笑顔は引きつりっぱなしだった。みぞれの才能を早いうちから看破しており、彼女はずるいと内心思いながらも表向きは笑顔で対応する。久美子は希美とみぞれの関係性を矢印の重みがみぞれ→希美に偏り過ぎていると思っていたが麗奈先生は逆だと指摘。希美の嫉妬、羨望を見抜く。そしてくすぶっていた時に遂にみぞれの全力を見せつけられ精神的に限界を迎え黄前クリニックのお世話になる。完全に闇堕ちしており幾度となく久美子と話すも中々心の闇は晴れず、もし滝がみぞれと希美の実力を理解した上でこの自由曲を選んだのであれば残酷だなぁと思った。結局のところその実力差は埋め難いもので、希美のフラストレーションは未解決問題のままなのだ。【大好きのハグ】でみぞれが希美に告白するが希美はそれに対して「私もみぞれのオーボエ好きだよ」としか返せない。精一杯返した言葉でさえ悲痛に満ち溢れており、今作の希美は虚淵作品から出張してきたかのような絶望的役回りを背負わされている。それが最高に良いんだが(ガチクズ)。

 

さて、あらかた主要メンバーについて書き並べた。今作の目標は大きく【リズと青い鳥の描写】【久美子たちの成長】【新1年生たちの紹介】の3点にあったと思われるが、奏や美鈴の性格は好みだし久美子の大活躍はカッコいいし3年生たちの苦悩と絡みはブッ刺さるし最高のお話だった。まだあるとは決まっていないがほとんど約束されているであろう最終章が待たれる、素晴らしい作品だった。映像でもみたいなぁ、あぁ、早く新作映画がみたい。

*1:パート内における演奏箇所区分。1stは基本的に主旋律など目立つ高音を担当するので優秀な奏者が担当する。

*2:黄前相談所に世話になった1年生:梨々花、美鈴、奏、夢、etc...

*3:実はここまでが優子の筋書きだったわけだが

*4:別冊、『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のヒミツの』収録。

*5:久美子の脳裏には度々【銀色のユーフォニアム】がちらつく。

*6:本人は胸の大きさを成長させたいようだが。

*7:1年のときにも予兆はあった。

*8:進学クラスというだけでそこまで描写はないが。

*9:個人的には久美子→狸がお気に入り。

*10:葉月は...いい奴だったよ...。

*11:このぐう聖のメンタルをゴリゴリ意図的に削るぐう畜1年がいるらしい。

*12:関西大会後の優子の言葉は強烈。

*13:優子自身は頑張りすぎて綻ぶ。

*14:メタ的に見ると久美子たちが3年になる終章へのタメの今作。古典派音楽の基本である【ソナタ形式】になぞらえてあると見ることができる。

*15:もしかしたら、もしかしなくても?次作のユーフォ映画『リズと青い鳥』で描かれるかもしれないけども。

*16:技巧というよりは努力の才能である。早々に先輩オーボエ奏者が辞めてパートに一人しかいなくなったにも関わらず毎朝早くからひたすら基礎連に励むのは中々マネできるものではない。